経営者個人について
法人を法的再生、ないし私的再生により事業再生を行うことができたとしても、当該法人の借入金の連帯保証人となっている経営者は、主たる債務者である企業に代わって債務を返済することになります。
このとき、債務の金額が大きすぎて返済できない場合、連帯保証債務の処理に関する問題が生じます。
連帯保証債務の処理については、法的整理を行って整理をするか、連帯保証債務を負担した状態のまま対処を考えるか、大きく分けて2つの方法から選択することになります。
法的整理による方法
法的整理による場合、自己破産をするか民事再生をするのが一般的です。
自己破産をすると所有財産は換価され債務の弁済に充てられ、残った債務については破産することで免責を受けることができ、支払いを免除されることになります。
(慰謝料や養育費、他人に損害を負わせた場合の損害賠償債務、租税公課等の滞納金などは、免除はされません。)
個人破産のデメリットとしては、
- 自宅等所有資産のすべてを処分しなくてはならないこと
- 一定の職業に就けなくなること
- 個人信用情報センターの記録に事故として登録(ブラック登録)されて数年間はクレジットカードを持てないこと
などに限られ、自己破産者でも会社の取締役に就任できますし、戸籍や住民票に記録されることはありません。
民事再生とは、裁判所の監督の下に債務の支払いを停止したうえで、債務の一部免除や長期の弁済条件を盛り込んだ再生計画に基づき返済していく制度です。
自己破産のように財産を処分せずに債務免除を受けることができるというメリットがありますが、再生計画が認可されるためには、自己破産による場合よりも債権者への弁済配当が多いことが必要となります。
なお、個人用情報センターの記録に事故として登録されてクレジットカードなどを持てなくなるのは、自己破産による場合と同様です。
法的整理をしない方法
法的整理をしないと、債権者から連帯保証債務の履行の請求を受けることになりますが、差し押さえられるべき目ぼしい資産がなく、給与所得等差押ができる収入がない場合は、法的整理をしないという選択肢もあります。
若くてこれから新たに収入を得て財産を形成する可能性のある方については、法的整理をして免責を受けておくほうが再起することにとって重要ですが、老齢の方などこれからは年金収入に頼って生活し、新たな財産を形成することが難しい方については、この選択肢も取り得ます。
なお、公的年金は差押対象外の収入ですが、一部のサービサーほか熱心な債権者は、口座ごと差押してくることがありますので、その場合には、法的整理をせざるを得なくなります。
サービサーに債権が譲渡された場合の取り扱いについて
連帯保証債権がサービサーに譲渡された場合には、債務の処理方法が異なります。
サービサーとは、1999年2月に施行された「債権管理回収業に関する特別措置法」に基づき、認可され営業を行っている債権の管理・回収業者のことで、金融機関は不良債権等をサービサーに売却することにより、バランスシートから不良債権をなくせるうえに税務上の損金処理ができるため、期限の利益を喪失した不良債権等の債権を、サービサーに債権譲渡して処理されることが多くなりました。
サービサーは、債権回収に特化した会社ではありますが、特別な回収手段が与えられているわけではなく、また、法務省の厳しい規制・管理の下で運営されているため、口や暴力などを用いて法律を逸脱したような取立てをすることはありません。しかしながら、サービサーとの間で債権債務の関係が生じている以上、やはり連帯保証債務の処理が必要となります。
サービサーによって対応は全く異なりますが、債務者の再生に対して比較的協力的なサービサーへ譲渡された場合には、債務者はサービサーと交渉して債権を比較的安い価格で買い戻すことができることがあります。この場合には、債権を買い戻す代金を支払うことで、事実上残りの債務を免除されることになるため、法的整理をすることなく連帯保証債務の処理を終えることができます。
反対に、債務者の再生よりも債権の回収に重きをおく経済合理性を追求するサービサーへ譲渡された場合は、債務者に対する対応もシビアであり、交渉もやっかいなものとなります。債務者が隠し財産を持っているとの前提のもとに、破産等法的整理や和解をしない限りは、サービサーは債権の取立て行為を行い、その期間が3~4年にも及ぶことはざらにあります。債務者が死亡したとしても、相続人にまで取立てを行います。
債権がサービサーに譲渡された場合には、もし交渉が不調に終わった場合には法的整理をすることを視野に入れつつ、サービサーとの間で債権の買い戻しができるように交渉をすることになります。
自宅不動産の取り扱いについて
自宅不動産を所有している場合には、法的整理をするしないに関わらず、処分をして債権者への弁済に充てられることになります。
経営者の自宅が、(1) 企業の借入金の担保に入っている、(2) 住宅ローン等の個人での借入金の担保に入っている、(3) まったく担保に入っていない、とケースによって交渉する債権者が異なってきますが、自宅にそのまま住み続けるための方法として、リースバック方式があります。
リースバック方式の手順としては、
- 不動産を買ってくれる知り合い等第三者である協力者を探してきて、その方が債権者と話し合いをして価格に合意できれば、その価格で売却し、売却代金を債権者へ支払うとともに担保権を抹消してもらいます。
- 担保権が抹消されたのちには、協力者から買い戻す、あるいは協力者に家賃を支払いながら住まわせてもらうことになります。
リースバック方式は、経営者・債権者の双方にメリットがあります。経営者自身が老齢者あるいは、同居者に親御さんなど老齢者がいる場合などには、住環境の変化は痴呆の発生や進行の原因となるので、自宅に引き続き住み続けることができるのは大きなメリットですし、債権者にとっても売却しにくい担保物件を売却して債権を回収できることはメリットがあります。
リースバック方式は、
- 不動産を買ってくれる協力者を見つけることができること
- 物件が買い手を見つけにくい場所にあること
が成功のポイントとなります。
不動産を買い取る協力者にとってメリットがほとんどないにも関わらず、万が一買戻しができなくなった場合に物件売却をすると損が出ることが多いので、協力者を探すことが容易ではないことと、 たとえば都内の一等地など買い手が多い場所では、競争入札にしたほうが協力者に対して売却するよりも価格的有利なことが多いことから、協力者への売却交渉は難しいことがその理由です。
なお、自宅不動産を処分することによって連帯保証債務がすべて無くなるわけではなく、連帯保証債務の総額と自宅不動産の処分価格との差額に相当する連帯保証債務については、上記の処理が必要となります。