格付けの向上について
金融機関の与信判断は、企業の財務力・信用力を査定し格付けした債務者区分に応じた判断がなされる(参照:「銀行の与信判断」について)ことから、格付けが低下すると金融機関の姿勢は当然に厳しいものとなります。
その理由は、金融機関は債権に分類に応じて償却・引当をしなくてはならないところ(参照:「債権の分類と償却・引当」)、債権の分類が非分類ならほとんど引当金を要さないのに対して、分類債権はⅡ、Ⅲ、Ⅳと悪化するほどに償却・引当を要するからです。
格付けがこの償却・引当が大きくなる要管理先以下になると、損益計算書上の利益は減少し、貸借対照表上も負債が増加するため、金融機関は採算の確保や財務体質の改善のための様々な措置を取るようになります。
具体的には、要管理先とは、要注意先の債務者のうち3ヶ月以上元本返済または利息の支払いが延滞している先や、金利の減免・返済条件の緩和などを受けている先をいいますが、要管理先に区分されると引当金の負担が要注意先と比べてはるかに重くなるため、金融機関は金利を引き上げたり、新たな担保等を要求したり、追加の融資を断ったりするようになります。
破綻懸念先とは、現状、経営破たんの状況にはないが、経営難の状態にあり、今後経営破たんに陥る可能性が大きいと認められるが、実質破綻先には至っていない先をいい、要注意先(要管理先を含む)が債務超過になったり、二期連続で赤字なると破綻懸念先に区分される恐れがあります。 破綻懸念先に区分されると、多額の貸倒引当金計上(債権償却特別勘定繰入)が必要となって採算が悪化するため、金融機関は新たな担保等を要求したり、貸付金の回収を図ってきます。
このように、企業の格付けが低下すると金融機関の姿勢は厳しくなるため、企業は格付けが低下しないようにすることが大事ですし、万が一低下してしまった場合には、格付けが向上するような資料等を作成・準備し金融機関と交渉することが重要となります。
格付けの向上策について
格付け(債務者区分)は、主に定量要因により判断されます。従って、格付けを引き上げるためには、この定量要因を改善していくことが必要です。
定量要因とは、返済能力を中心に安全性、収益性、成長性などを評価される財務項目です。数期にわたる決算書の数字を分析した結果から算出されるもので、この定量要因を改善していくためには、業績を向上し財務体質を改善していくことが重要です。
また、格付けの判断において、金融機関等の支援を前提とした経営改善計画の妥当性と実現可能性が勘案要素になる旨が、金融検査マニュアルに掲げられています。従って、格付けを引き上げるもうひとつの方法としては、金融機関が格付けを引き上げたくなる経営改善計画の策定が有力な手段となります。
業績改善の見通しを明らかにした実現可能性の高い経営改善計画を作成し、その進捗状況を明らかにすることで、金融機関の格付けの引き上げを目指すことになります。
中小企業・零細企業の格付け向上策
金融検査マニュアルにおいて、中小・零細企業の債務者区分の判断に際しては、大企業と異なり当該企業の財務状況だけでは実態の判断をしにくいため、技術力、販売力、成長性、代表者等の収入状況や保証能力等を総合的に勘案して判断することとされております。
中小・零細企業の債務者区分の判断は、定量要因である当該企業の財務状況に加えて、企業の成長性を支える重要な要素となる技術力や販売力など事業の継続性・収益性の向上に寄与する要素や、金融機関との過去の取引振りや経営者の姿勢・能力といった経営者の資質などの定性要因を総合的に勘案して行うこととなります。
金融検査マニュアル(別冊)
金融検査マニュアルにおいて、中小・零細企業の債務者区分は、定量要因と定性要因から判断されることが記載されています。しかし、金融検査マニュアルの記述が抽象的でわかりにくい、金融検査において機械的画一的に適用されているのではないかという意見があったため、中小・零細企業等の債務者区分の判断にあたっての検証ポイントや具体的運用例を示した金融検査マニュアル(別冊)が作成・公表されました。
具体的な運用例を示して、中小企業・零細企業の経営実態に応じた検査のやり方を公表することで、金融検査マニュアルによって生じた必要以上に慎重で画一的・機械的な金融機関の対応を是正することを図っています。
本来要注意先となる企業が正常先に格付けられるケースや、破綻懸念先が要注意先となるケースなど27の具体的な運用例が示されています。
なお、金融検査マニュアル(別冊)と金融マニュアルについて簡単にまとめられたパンフレット中小企業の資金調達に役立つ金融検査の知識は、金融庁のサイトで入手できます。