銀行の与信判断について
リスケジュールの交渉を銀行と行うに際して、銀行の行う与信判断について理解をしておくことは有益です。
バブル崩壊以降多額の不良債権を抱え込んだ金融機関が経営破たんした状況を踏まえて、金融機関に対して経営のすばやい改善を促すとともに、早期の是正を求めていくために、平成10年4月に早期是正措置が制度化されました。
早期是正措置とは、自己資本比率が規定の基準を下回った場合、金融当局から出される行政命令で、措置の内容は、経営改善計画の作成から増資計画の策定、既存事業の縮小、業務の一部または全部停止まで自己資本の状況に応じた命令がなされます。そこで、自己資本比率そのものが正確ではなくてはならないことから、金融機関は自らの資産内容を正確に把握し、適切な貸出金に対する償却・引当を行い、適正な財務諸表を作成することが必要不可欠となりました。
この金融機関が自らの資産内容を性格に把握するための指針が「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)」です。
自己査定と取引先の格付け
自己査定とは、この適正な財務諸表を作成する準備と位置づけられる作業のことで、自らの資産内容の健全性を把握するため、自己責任の原則に則り、金融検査マニュアルに即した形で金融機関が自らの資産(貸出金・支払承諾・外国為替・有価証券・不動産等)を個々に検討することになります。
貸出金の自己査定の方法は、はじめに個々の取引先を財務内容等から区分をします。この個々の取引先を財務内容等から区分する手続を「格付け」といいます。
この格付けによって決められた取引先区分(債務者区分)をベースとして、債権の資金使途等の内容を個別に検討し、貸付金に付帯する担保や保証等の保全状況を考慮して、銀行資産である貸出債権を回収の危険性や価値の毀損の危険性の度合いに従い分類されることになります。
裏を返して言えば、企業の財務力・信用力を査定し格付けした債務者区分に応じて融資条件が決められるようになりました。
債務者区分について
債務者区分の判断手続(格付け)は、
- まず債務者の財務内容等と、債務者に対する貸出条件・延滞の有無等の債務の履行状況より、形式的に債務者を「正常先」から「破綻先」まで5つの段階に区分されます。
- 次に、形式的に区分した債務者を、業種等の特性を踏まえながら、事業の継続性や収益性の見通し、キャッシュフローによる償還能力、経営改善計画等の妥当性、金融機関の支援状況等を勘案して、最終的に区分することとなります。
債務者区分 | 内容 |
---|---|
正 常 先 | 業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる先 |
要 注 意 先 | ・元本の返済猶予など、貸出条件に問題のある先 ・元本返済返済または利息の支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題のある先 ・赤字決算等で業況が低調ないし不安定など財務内容に問題のある先 |
(要 管 理 先) | 要注意先の債務者のうち、3か月以上延滞したり、金利減免などの条件緩和を行った先 |
破 綻 懸 念 先 | 現状、経営破たんの状況にはないが、経営難の状態にあり、今後経営破たんに陥る可能性が大きいと認められるが、実質破綻先には至っていない先 |
実 質 破 綻 先 | 法的、形式的な経営破たんの事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見込みが立たない状況にあると認められるなど、実質的に経営破たんに陥っている先 |
破 綻 先 | 破産、清算、会社更生、民事再生、手形交換所における取引停止処分等の事由により経営破たんに陥っている先 |
※正常先は、さらに細かく区分されます(区分の中身は金融機関によって異なります)。
債権の分類
「格付け」によって決められた取引先区分(債務者区分)をベースとして、貸付金に付帯する担保や保証等の保全状況を考慮して、貸出金債権の個々について回収の危険性や価値の毀損の危険性の度合いに従い分類されることになります。
分類資産区分 | 分類内容 |
---|---|
Ⅰ分類資産 (非分類資産) | 回収の危険性または価値の毀損の可能性について、問題のない資産 |
Ⅱ分類資産 | 債権確保上の諸条件が満足に満たされないため、あるいは信用上疑義が存する等の理由により、その回収について、通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権等の資産 |
Ⅲ分類資産 | 最終の回収または価値について重大な懸念が存し、したがって損失の可能性が高いが、その損失額について合理的な推計が困難な資産 |
Ⅳ分類資産 | 回収不可能または無価値と判定される資産 |
※自己査定において、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ分類に区分することを「分類」、分類した資産を「分類資産」といい、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ分類としないことを「非分類」、分類資産以外の資産(Ⅰ分類資産)を「非分類資産」といいます。
債務者区分と債権の分類
債権の分類は、債務者区分をベースに行われるものであり、債務者区分ごとの分類の基準は次の通りです。
- 正常先に対する貸出金は、原則として非分類
- 要注意先に対する貸出金は、優良担保や優良保証等分類対象外貸出金を除く総与信は、原則Ⅱ分類。長期固定分類を行い「実質長期貸出金」を算出し、返済が所定の年数(建物20年、土地25年、その他10年)を越える部分はⅡ分類
- 破綻懸念先に対する貸出金は、優良担保や優良保証等によりカバーされていない貸出金等は保全状況等によりⅡ、Ⅲ分類
- 実質破綻先・破綻先に対する貸出金は、優良担保や優良保証等によりカバーされていない貸出金等は保全状況等によりⅡ、Ⅲ、Ⅳ分類
この分類の基準を表にすると次のようになります。
債務者区分 | 正常運転 資金等 | 優良担保 ・保証分 | 一般担保 ・保証分 | 債権額と担保処分 可能額の差額分 | 保全の ない部分 |
---|---|---|---|---|---|
正 常 先 | 非 | 非 | 非 | 非 | 非 |
要 注 意 先 | 非 | 非 | 非 | 非 | 非 |
要 管 理 先 | 非 | 非 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅱ |
破綻懸念先 | - | 非 | Ⅱ | Ⅲ | Ⅲ |
実質破綻先 | - | 非 | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ |
破 綻 先 | - | 非 | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ |
このように、金融機関は、取引先を決算書等に基づく評価(債務者区分)と貸付金に付帯する担保や保証等による評価を組み合わせて与信判断を行っています。
債権の分類と償却・引当
金融機関は、貸出債権に関する自己査定の結果や企業会計原則などに基づいて、貸倒償却や貸倒引当金を計上します。償却や引当を適切に実施し、適正に財務諸表に反映することを通じ正確な自己資本比率を算出することになります。
貸倒引当金の計上は、正常先や要注意先(要管理先を含む)向けの債権を対象とし、直接償却や間接償却(債権償却特別勘定繰入)は、破綻懸念先や実質破綻先、破綻先向けの貸出金を対象とします。
具体的には、
- 非分類の債権は、貸倒実績率により引当金を計上する
- Ⅱ分類の債権については、別途計算する貸倒実績率に基づき貸倒引当金を計上する
- Ⅲ分類の債権については、債権額から担保処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し、残高のうち必要額を間接償却する
- Ⅳ分類の債権については、債権額から担保処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し、残額を償却するか間接償却する
ことになります。