私的整理ガイドライン
私的整理ガイドラインとは、平成13年に政府が発表した緊急経済対策を受けて採択されたもので、法的手続を使わず債権者と債務者との合意に基づき、債権放棄などを行うための手続規定です。
経済団体連合会や全国銀行協会などを委員とする私的整理に関するガイドライン研究会が公表したものであり、法的拘束力はないものの真に再建に値する企業の私的整理に関する金融界・産業界・経営者間の一般的コンセンサスとされています。
私的整理ガイドラインの特徴
1. 債権者が債権の無税償却ができること
純粋な私的整理において金融機関が債権放棄をするには、個別の案件ごとに税務当局に損金になるかどうかの判断を受けなくてはならないが、ガイドラインに基づく私的整理により債権放棄などがされた場合には、税務当局から合理的に債権放棄がなされたと推定され、税務上損金算入が認められて、債権者は債権の無税償却ができます。
2. 経営者と株主は責任を負うこと
ガイドラインの適用条件として、経営責任と株主責任を明確にすることが求められており、債権放棄を受けるときは、従来の経営者は地位を失うことになります。また、原則として再建計画手続において減増資が行われる結果、従来の株主は地位を失う、あるいは所有株式の価値を減ずることになります。
3. 法的再生と同水準かそれ以上の再生が図れること
ガイドラインの適用条件として、再建計画成立後翌期より3年以内を目処とした実質債務超過の解消と経常黒字転換が求められているため、かなり踏み込んで債務免除や資本増強策がとられ法的再生と同水準かそれ以上の再生が図られることになります。
4. 法的再生手続きを申立てる可能性があること
提出された再生計画案が債権者集会で認可されないときは、任意整理終了の宣言がなされ、債務者は法的倒産手続の申立てなど適宜な措置を取ることになります。
ガイドラインの手続
債務者が主要債権者(債権額が多い金融機関)にガイドライン手続を申し出すると、主要債権者はガイドラインの規定する手続利用条件を調査し、要件が認められれば手続が開始します。
※手続利用条件:(1) 過剰債務により自力再建が困難であること、(2) 債権者の支援により再建の可能性があること、(3) 法定整理の申立てが事業価値を著しく毀損し、事業再建に支障が生じるおそれがあること、(4) 法的整理と比べて債権者に経済合理性があること(ガイドライン3項)
手続開始後、主要債権者と債務者の協議のもと事業再構築、資本増強、債務弁済等の再建計画を作成し、他の債権者(対象債権者のうち主要債権者以外の債権者)に対する債務の支払いの一時停止の通知をしたのち、債権者集会を行います。
債権者集会において他の債権者より再建計画に対する同意を得ることができれば、再建計画は実行にうつされることになります。
ガイドライン手続の利用状況
私的整理ガイドラインの手続は、主要債権者が主導で行う企業再建の手続であり、債権者間の調整に客観的な第三者の関与がありません。
再建計画を債務者とともに作成し再建手続を主導する主要債権者が、客観的な第三者の関与を受けることなく事業再建よりも自己の金融支援負担額の削減に関心のある主要債権者以外の債権者から再建計画に同意を得なくてはいけないため、主要債権者の資金面・非資金面での負担が相当重たいものとなります。
その結果、私的整理ガイドライン手続は、(1) 資金面・非資金面の両面での負担をしてでも事業再建をするに値する規模の大きい会社で、(2) 利害関係を有する当事者同士での調整になるため、資金面・非資金面での負担が可能なメガバンクがメインバンクである会社で専ら用いられています。